活動報告
[ HOME ]
第6回ワークショップ
(2005年2月9日〜2月18日)
[ ←活動報告 ]

第6回ワークショップをチンチップ村にて、アラハバード農科大学と日本のNPO法人アーシャとの共催、及びインド松下電器の協賛で行いました。また、椎茸栽培を始めているマニプール州のNGOからも講師を呼びました。

スタッフ


三浦 照男

アジア学院副校長

川口 景子

アラハバード農科大学助手

高丸 和彦

有機農業家

大村 奈々美

食品加工専門家

 

 

横田 仁志 コーディネーター

特別講師

 

T.カペ

マニプール椎茸生産加工組合

P.ディェンガン

マニプール椎茸生産加工組合

内容

今回のテーマは、『農業と微生物』です。農業には微生物の働きが欠かせません。しかし、微生物は単体では目に見えません。培養して発酵したり、腐ったりして初めて目に見えますが、この概念を教えるために、ボカシ肥料を作ることの他に微生物を使った食品加工(発酵食品)を取り入れました。

食品加工は

1. 生産物の保存性を高める

2. 生産物に付加価値をつけ収入を増やす

3. 食文化を広げる

など、農家自身が行う事によって多くの利点があります。

その他、ポットを使わず少ない水で丈夫な苗を作る『練り床』、世界的に注目されてきている日本の『椎茸栽培』、環境に優しく経済的な『太陽熱乾燥機』、油菜や小麦を植えた『畑見学』などを行いました。

ボカシ肥料、天恵緑汁、土着菌の作り方、使い方

2003年のワークショップでも教えたのですが、なかなか普及しません。

理由は

1. たぶん面倒臭いというのが一番でしょう。これまで自分で肥料を作ったことが無く、政府からは無料で化学肥料が配られてきたので、自分で作るメリットが分からない。

2. 材料の問題。企業養鶏やがほとんど無く、精肉工場や水産加工も無いので材料となる鶏糞や肉骨粉が集めにくいこと、油を絞っていないので油カスが無いなど、調達が難しいこと。

根気良くリサイクルを行っていけば材料の問題は解決できますが、周知させるには社会環境が変っていかなくてはなりません。それでも、ミゾラムでは2004年から有機農業に転換する方針が出されており、行政側が理解すれば必ず生きてくる技術です。

(写真:ボカシ1) (写真をクリックすると拡大します)

   (写真:ボカシ2) (写真をクリックすると拡大します)

食品加工

微生物の概念を教えるために、麹作りと味噌作りを通して麹菌の勉強、キムチ作りを通して乳酸菌の勉強をしました。また、大豆生産を推進するため、豆腐や豆モヤシの作り方を紹介しました。

味噌やしょうゆ作りには欠かせません。また、ボカシ肥料の発酵に使うと極上のボカシが出来ます。もちろん酒も造れます(ミゾラムは禁酒州ですが)。今は日本でも自分で作る人はほとんどいませんが、昔から作られてきたものですから技術さえあれば高い投資をしなくても作れるものです。

麹培養箱を作って挑戦しました。講師の高丸氏は自分で麹を培養し、味噌・しょうゆを作っています。

(写真:麹1) (写真をクリックすると拡大します)

ベテランの高丸氏の指導で見事な麹が出来ました。

(写真:麹2) (写真をクリックすると拡大します)

味噌

出来た麹と茹でた大豆、塩を混ぜて味噌作りをしました。ミゾラムには納豆はあっても味噌はありません。しかし、すぐ隣のミャンマー人は味噌の味が大好きですので、ミゾラム人の食味にも合うはずです。セミナー中に何度も味噌汁を食べさせましたが、反応は様々。この味噌が出来あがって、しばらく食べ続ければきっと彼らも好むようになるのではないかと思います。

(写真:味噌1) (写真をクリックすると拡大します)

(写真:味噌2) (写真をクリックすると拡大します)

 

キムチ

日本でも一般的な韓国の漬物キムチ。ミゾラムには乳酸発酵させた漬物は無く、ヨーグルトでさえ食べるようになったのはほんのこの10年。キムチも私が以前作って紹介しましたが、ミゾラム人が言うには酸っぱいものは食味に合わないとのことでした。しかし、隣のミャンマーではキムチのような漬物は食べられています。ミゾラム人は食わず嫌いが多いのです。

2002年のワールドカップサッカーを契機に、韓国の国際放送アリランTV(英語で24時間、韓国の様々な文化、ドラマ(時々日本のドラマも!)などを放送している)に人気が出て、キムチも紹介されていることから、セミナーでも作ってみました。テレビの影響と言うものは非常に強いものです。テレビで紹介されたものなら美味しく食べられるようです。

キムチは乳酸発酵なので胃腸にも良く、残った漬け汁は植物活性剤や忌避材として葉面散布に使えます。

(写真:キムチ1) (写真をクリックすると拡大します)

(写真:キムチ2) (写真をクリックすると拡大します)

豆腐

豆腐は元々インド発祥のパニール(乳腐)が起源。日本に伝わる過程で原料が牛乳から豆乳に変ったものです。パニールはミゾラムでも知られていますが、あくまでインド文化のもので一般的ではありません。値段が高いと言う事もあります。牛乳を飲む文化が元々無かった事もあります。しかし、大豆は茹でただけのものを食する習慣がありますから(ご飯に水で茹でただけの大豆! 美味しくありません)受け入れられやすい味です。味噌、豆腐、モヤシが作られるようになって、畑に窒素を入れる大豆栽培が盛んになれば自然に土が豊かになるであろうという魂胆です。反応は様々、卯の花の方が受けたようにも見られます。凝固材は日本のニガリのほかにレモンを使ったものも作ったみました。多少酸っぱくなりますが、料理に使えばそんなに気になりません。何でも現地にあるもので代用です。

(写真:豆腐1) (写真をクリックすると拡大します)

(写真:豆腐2) (写真をクリックすると拡大します)

モヤシ

モヤシはわずか3日で出来る農産物ですから、貧しい農家の日銭稼ぎにはもって来いの作物です。東アジア文化圏ではどこにでもありますし、近隣のナガランド州にもあります。ミゾラムに無いのが不思議です。太陽熱乾燥機の熱を利用して作りました。

(写真:モヤシ1) (写真をクリックすると拡大します)

(写真:モヤシ2) (写真をクリックすると拡大します)

切干大根

大根はミゾラムではあまり食べられません。冬は乾季で水が無い事、粘土質の土が硬い事、それに食べ方が分からないと言う事があります。食べるとしても、生のまま一切れ二切れかじる程度。栽培は簡単ですし、時期を見計らえば育てられない事はありません。現に私は毎年育てているのですから。乾季の野菜不足の時の保存食、ビタミン源、副収入と、定着すれば良いこと尽くめです。太陽熱乾燥機の紹介や使い方の実習を兼ねて、切干大根を作りました。

(写真:切干大根1) (写真をクリックすると拡大します)

(写真:切干大根2) (写真をクリックすると拡大します)

しかし、参加者からは『あんなにあった大根がこんなに少しに?』と、出来あがりの少なさにがっかりしているものが多く見うけられました。

(写真:切干大根3) (写真をクリックすると拡大します)

日本では農家が、あるいは共同体で食品加工まで行うのは当たり前になっています。しかし、食文化が発展していないこの地域は加工食品自体の種類が少なく、また、近代社会が成立する前にインド式分業制が入ってきてしまい、自ら加工して売ることまでは行いません。

仕事が無く貧しいと皆言いますが、仕事の仕方がわからないのです。食品加工を通じて農民に経済力がつけられれば、農業自体も替えていく事が出来ると期待しています。

太陽熱乾燥機

環境の面からも経済性の面からも自然のエネルギーを十分使いたいものです。太陽光でパネルを暖め、その空気を箱に送る単純な太陽光乾燥機を作って紹介しました。セミナーでは切干大根、モヤシを作って実演しましたが、用途は多目的で環境に優しく、燃料費はかからず経済もちろん何にでも使えますので、ミゾラムの特産物の唐辛子やターメリックの乾燥にも使え、またヨーグルトを作ることも出来ます。

(写真:太陽熱乾燥機) (写真をクリックすると拡大します)

練り床

日本では苗作りに小さなポットが使われています。土ごと植えかえれば根は痛みません。ミゾラムでは植え替え時に苗を土から引きぬくので根を痛めたり、上手く根付かなかったりします。もっとも苗作り自体があまりされていませんが。また、雨季には有り余る水ですが、乾季には生活用水さえままならないので当然畑には水が回りません。練り床は、少量の水で粘土ポットを作り、植え替え時にはその土ごと移植する技術で、ミゾラムの農業事情の条件にはピッタリです。

(写真:練り床1) (写真をクリックすると拡大します)

(写真:練り床2) (写真をクリックすると拡大します)

椎茸栽培

ミゾラムの北隣の州マニプールでは、アジア学院の卒業生が椎茸栽培を行い、商業的に成功しています。その食味やHIVの薬の原料としても世界的にも注目されている日本原産の椎茸栽培、マニプールから講師を呼んで紹介しました。椎茸栽培も97年に個人的に試させたのですが、収穫まで時間がかかること(ミゾラム人は待てない!)、ほだ木が薪にちょうど良い大きさなので盗まれてしまう事などで結局失敗に終わっています。ある程度集団で行い、周囲に充分周知させないと難しいのです。にほんとはセミナー期間中、2回椎茸の味噌汁を作って参加者に食べさせ、味を確認してもらいましたが、反応は上々でした。ほだ木も楢以外のこちらにある木で代用できることなども習いました。

(写真:椎茸駒打ち) (写真をクリックすると拡大します)

畑見学

乾季には水が無いということでほとんど行われていない農業ですが、小麦やアブラナを栽培して紹介しました。小麦は福岡正信さんの自然農法に倣って前作の稲の藁を小麦の上から蒔いてマルチにしました。稲藁の振り方が難しく、厚く撒いたところは芽が出て来れず、薄く撒いたところは乾燥して枯れてしまい、名著『わら一本の革命』のように易しくはありません。しかし、わらを撒かなかったところは全く出てきません。マルチの重要性を実際に目の当たりにする事で良い経験ができたことと思います。

(写真:麦) (写真をクリックすると拡大します)

(写真:油菜) (写真をクリックすると拡大します)

評価・反省会

今回は初めて食品加工や料理を取り入れ、これまでの農業一辺倒から趣がずいぶん変わりました。目新しい事盛り沢山でしたので、どのくらい受け入れられたかはまだ分かりません。反省会では何に興味を持つことが出来たかを中心に話し合われました。

(写真:反省会) (写真をクリックすると拡大します)

加工食品では麹や味噌作りには多くの時間を費やしましたが、一番受けたのは豆腐でした。美味しくて売れそうとの事。味噌は臭いを嫌ったり、作るのが面倒だったりと、しばらく食べ続け味に慣れないとその価値がわからないものと思われます。

農業面では、ボカシと椎茸に関心が集まりました。特に椎茸栽培はマニプールのNGOが成功している事、ミゾラムではボタンマッシュルームが高く売れている事などから関心が向いたのではないかと思われます。

 

総評

今回のセミナーはテーマこそ『農業と微生物』でしたが、加工食品に多くの時間を割きました。食文化の未熟なミゾラムにどのくらい馴染んでもらえるかは計り知れません。ここの料理は基本的に米でも野菜でも肉でも魚でも水で煮るだけ、農民の中には自分達が料理をする事に戸惑いもあったのではないかと思われます。これまで、水で茹でる以外の料理をした事がない者がほとんどで、初めての味。舌を肥えさせないことには加工食品を作る事はできません。ミゾラムでは政府主導で食品加工の指導も取り入れていますが、全部失敗です。理由は簡単、生産者自身が食べないから品質管理が出来ないのです。結局これでは売れないのです。農業技術にしても然りで、美味しいものを自分で食べたいという気がなければ技術は上がりません。無理に食文化を誘導するものではありませんが、健康・栄養面も考えた食文化や、持続可能な農業を行っていくためのオルタナティブな文化は必要だと考えます。